バイオマスボイラにおける木質燃料とシステムについての知識(重要)


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1 チップ燃料は均質でない

バイオマスボイラの出力は燃料の条件によって変動する。すなわち燃料の条件が「変数」であることをまず前提とする必要がある。したがってその「解」である出力も変動する。

「ボイラが継続して一定の出力を出す。」というのは燃料が均質で、重量当たり同じ発熱量を維持し、フル燃焼を前提にした場合で、性状が変動するバイオマス燃料を使う場合には、燃料の変化に対する燃焼制御や必要な熱量を供給できるシステムが必要である。

変動しうるバイオマス燃料を用いた熱供給システムでは、次のポイントが条件である。

  • @ 燃料の性状・条件を一定の許容範囲内に収めること
  • A 用途ごとの負荷を満足する熱供給システムを組むこと

燃料の「変数」とは

  • 1) 樹種(針葉樹、広葉樹)
  • 2) 部位(木部、樹皮、枝、葉など)
  • 3) 含水率(下の表参照)
  • 4) 形状(寸法、かさ比重)
  • 5) チッパーの種類(破砕型/切削型、メッシュの大きさ)

そしてその結果としての

  • 6) 発熱量(重量あたり、容積あたり)
  • 7) 灰の含有量

【含水率と発熱量の関係】

右の表のように、チップでも重量あたりの発熱量は湿潤チップと乾燥チップとでは最大1:2もの差がある。 同じ出力を得るためには燃料チップの搬送量はその発熱量によって調整する必要がある。

グラフ1

    ↑図をクリックすると 拡大図が開きます。)

【チッパーによるチップの種類】

表1

【灰の成分率による影響】

木質バイオマスを燃焼した場合に灰が残留する。化学分析によって得られたその量は木部では針葉樹、広葉樹を含めて絶乾重量の1%弱であるが、樹皮は多く、針葉樹では1〜2%、広葉樹では5〜7%となっている。(下表)

表2

灰分が多いと、発生した燃焼灰そのものが燃料を覆い、燃焼を妨げる。また灰が燃焼空気口に入り込むと、十分な燃焼空気が供給されない。800℃以上の炉内温度では灰が原因のクリンカーが塊となって発生しやすくなり、炉壁などに付着してトラブルの原因となりやすい。

2 燃料の含水率などの性状によるバイオマスボイラと付帯設備のタイプ

ボイラによって、燃料の許容範囲があり、たとえば「生チップ焚きボイラ」では木質の含水率は120%(乾量基準)が上限であり、それ以上の場合は運転しても、負荷変動に対して炉内温度が上がらず、ボイラは良好な燃焼を継続できない。
「乾燥チップ焚きボイラ」では出力150KWまでは含水率上限は50%、180KW,以上では含水率上限は80%(乾量基準)である(自動着火は含水率60%以下で可能)。

図1

【生チップ焚きボイラの燃焼制御システム】

生チップ焚きボイラには5つの燃焼制御システムが搭載されている。 このうち特に、サイロからの燃料の含水率、樹種などは変動するために、熱交換部の出口に、排気ガス中の酸素濃度を保つO2センサー(ラムダセンサー)を設けて、適当な酸素濃度を保つよう燃焼空気量を制御し、燃料の変動にも、最適燃焼ができるような制御を行う。

図2

【サイロからの燃料積み出し方式】

サイロ容量と燃料の種類によって燃料積み出し方式を選択する。

プッシュフィーダー方式
スウィーベルアーム方式
スプリングアーム方式
プッシュフィーダー方式
スウィーベルアーム方式
スプリングアーム方式
油圧装置でバーを稼動。
大容量サイロで、生チップ、乾燥チップ、バーク燃料に対応。
モーターによりアームを回転。
直径6mの中容量サイロで、生チップ、乾燥チップに対応。
モーターによりアームを回転。
直径3m以下の小容量サイロで乾燥チップ、ペレットに対応。

【燃料搬送】

木質燃料搬送装置には「スクリューコンベア」と「チェーンコンベア」とがある。

(1)スクリューコンベア

一定の径のスクリューが回転することによってチップを搬送する。比較的高い精度の量でチップを搬送することができる。このスクリューが搬送できる木質のサイズの範囲は原則80mm×20mm×10mm以内のものが求められ、その規格外であればスムーズに燃料は搬送されない恐れがある。サイロから搬送装置へ、あるいは搬送装置の中継箱などでは、木質のサイズが適切でなければ、ブリッジを発生する可能性がある。特に、破砕型チップは圧縮されやすく、容易にブリッジが発生するので注意を要する。

また規定より長いチップは、スクリューに噛んでモーターに過大な負荷をかけたり、搬送路上のセンサーに引っかかって動作エラーを発生させることがある。スクリューの傾斜は45°以内に収める必要がある。

スクリューコンベア 中継箱
スクリューコンベア
中継箱
(2)チェーンコンベア

長さが25cm程度まである規定寸法より長いチップ(バークを含む。)を搬送する場合は幅の広いチェーンコンベアを選択する。
チェーンコンベアはほとんど垂直な方向にもチップを搬送できる。
但し、搬送量はスクリューコンベアに比べ、精度は荒い。

チェーンコンベア チェーンコンベア頂部
チェーンコンベア
チェーンコンベア頂部

3 木質チップの燃焼特性

(1)追随性の緩慢さと木質焚きボイラの選定

固定燃料によるボイラの運転は「船の舵」のようである。すなわち、ボイラの冷缶状態からの起動時で着火から所定の出力が出るまで数時間〜半日程度かかる。また停止ボタンを押してからボイラが完全に停止し、冷却するまでは1日程度かかる、すなわち、木質焚きボイラでは「追随性が緩慢である」ということである。

@高負荷状態でボイラが燃焼しているときは、ボイラへの還り温度は低く、ボイラ缶水温度は設定温度以下に保たれ、ボイラは目一杯稼動し、十分な出力で運転される。

Aその状態から負荷が急に減少した場合、炉内の残り火の熱を吸収できなくなり、ボイラ缶水温度は一時的に上がるオーバーシュートという現象により、局所沸騰が起こる場合がある。ボイラは炉内の木質燃料がなくなるまで燃焼状態は続き、燃料が燃え尽きるころからようやく缶水温度は下がる。

このように、ボイラのOFF指示をしても、燃焼停止状態まで時間差がある。場合によってはボイラの温水温度のハイリミットが作動し、ボイラはエラー警報を発して停止する。 木質焚きボイラの運転では、できるだけ発停を繰り返さず、ベース負荷に見合う一定出力での連続運転が好ましく、蓄熱タンクやバックアップボイラなどと組み合わせたり、24時間連続運転を前提に負荷の変動をあまり受けにくい出力レベルで運転されるような能力のボイラを選定することが望ましい。

(2)燃焼炉内の負圧制御

燃焼炉内は煙道部に取り付けた誘引ファンによって燃焼空気を引き込んで燃焼炉内を負圧状態で燃焼を行う。これは、木質焚きボイラではバーナ側からのみ燃焼空気を送る加圧燃焼がなじまないことと、同時に木質焚きボイラでは燃料投入部などに隙間があり、強制誘引でないと有毒な燃焼ガスが機械室内に逆流する恐れがあるためである。 停止時には炉内の負圧がなくなるので、燃焼炉内に残り火があるときは機械室内への燃焼ガスの逆流をおこさないために、煙突のドラフトの働きが必要であると同時に、機械室内は停止時でも残り火がある限りは加圧状態になるようにしておくことが肝要である。

(3)電源停止時の沸騰と逆火

木質焚きボイラでは突然の電源の停止がある場合、次のような現象が起こる可能性がある。

@停止直後に温水循環が止まって熱の行き場がない場合は、残り火の燃焼が続いて、缶水が沸騰し、ボイラ缶水量が十分でないと沸騰水がボイラから噴出する可能性がある。温水のハイリミットの設定温度の検討とボイラ缶水容量を大きめにするなどのボイラ側の対策と同時に、負荷側のシステムでは負荷をいきなりゼロにしないことが大切である。

A突然の停電時には燃焼室の燃料の残り火からサイロのほうへ逆火する可能性がある。その対策として燃料搬送装置が多段式で燃料の経路をいったん区切り、空気流の遮断を行う。またセンサーによって燃料搬送路の異常高温を感知して緊急停止し、搭載されている緊急警報システムで通報し、さらにその搬送路に消火用の水が自動的に送られる仕組みになって、三重四重に火災の防止対策をとっている。

(4)煙道・煙突での結露とタールや木酢液の発生

含水率の高い木質燃料を燃焼させる場合、水分の発生も多くなるが、通常の燃焼では燃焼ガスとともに煙道から排出される。
しかし次のようなケースでは問題が起こり、故障や事故などにつながる恐れがある。

@含水率がボイラの許容限度を超えて高い場合:水分の乾燥にほとんどのエネルギーを奪われ、不完全燃焼が起こりやすくなる。燃焼炉壁での蓄熱も減少し、本来水分を蒸発させる効果も低下する。この場合には黒煙が発生し、排気ガス温度も低く、木質燃料から発生した水分が煙突から十分排出されないで、再び結露する可能性がある。

A負荷がかなり低い場合:燃焼エネルギーが低くなり、上と同様な現象が起こりうる。ボイラは発停を繰り返し、燃料と空気のバランスが崩れやすく、未燃のすすが出て、黒煙と煤塵が多量に発生しやすくなる。

B外気温が低く、煙突の断熱や高さが不十分な場合:結露がおこりやすくなる。


これらの状態の場合では、タールや木酢液も相当量発生する可能性があり、煤塵などとともにボイラ熱交換部の煙管、煙道、煙突部に付着し、このため燃焼ガスからの熱交換が十分に行われずに高温になった燃焼ガスで発火すると、煙道や煙突火災を引き起こす恐れがある。

中継箱
不完全燃焼時の煙
煙突に付着したスス
(注)岩手県林業技術センター提供

(5)燃料の性状の変動

化石燃料では均質の燃料であり、その搬送速度は一定でよいが、木質焚きボイラでは燃料の性状の変動が急激な場合には燃焼が不安定となり、煙やすすを発生するなどの問題が発生する。変化がそれほど大きくなければ、ラムダ制御で好燃焼を維持するための対応ができるが、燃料の性状変化が著しい場合には制御のパラメータを調整する必要がある。

■ トラブルを起こさないための対策

@燃料の含水率については、原木、チップ製造時、サイロへの投入時など常に注意を払い、基準値以上の含水率にならないように(生チップで湿潤含水率50%以下)、また含水率変化が大きくなり過ぎないように管理する。

A形状については、スクリューコンベアの場合には、切削型のチップを用い、寸法を80mm×20mm×10mm以内(製紙用チップの形状(4〜5cm角×0.5〜1cm)でも可)とする。それ以外は搬送装置などに別途配慮する必要がある。

B負荷が大きく変動しないようなシステムを組む。

【温水ボイラの場合】

 負荷が低い場合の対策には、緩衝用の蓄熱タンクを組み合わせるなどして、発停が頻繁に行われないようなシステムを組んでおく。負荷が多すぎる場合でも、還水温度が低下して炉内温度が下がる場合があり、三方弁を組み合わせるなどして、ボイラへの負荷をかけすぎないようにする。

C煙突・煙道には十分な断熱を施す必要がある

D逐次、燃焼炉内、煙管、サイクロンなどの部分のボイラ点検を励行し、一定頻度で掃除をすることが大切である

■ 木質焚きボイラでの留意点
木質焚きボイラ

4 負荷に見合う熱量と温度を維持するためのシステムの組み方

1)バイオマスボイラはベース負荷に見合い、低負荷にも対応しやすい大きすぎないバイオマスボイラを選定し、極力24時間連続運転を行う。

2)蓄熱タンクを設置し、要求される一定の熱量を一定の温度で蓄えておき、速やかに負荷変動に対応できるようにする

3)化石燃料によるバックアップボイラを設置し、ピーク負荷に対するバイオマスボイラの出力不足をカバーする。また85℃以上の高温の温水が求められた場合に対応する。

4)複数台のバイオマスボイラを設置し、負荷に応じて運転台数を制御する。
 

■ バイオマスボイラを使った熱供給フロー図例
バイオマスボイラを使った熱供給フロー図例

(注)温水熱源の低温型吸収冷凍機ではその性能を最大化するのに88℃の温水が求められる。

【熱量と温度の関係】

  • 1) 十分な熱量がなければ、温度は得られない。(熱媒の比熱による。)
  • 2) どんなに大量の熱があっても、求められる温度が得られなければ用途に応えられない。たとえば、風呂の湯やシャワーは熱量も必要であるが、優先的に求められるのは温度である。
  • 3) 熱媒の往きと還りの温度差と流量によって時間当たりの供給される熱量は決まる。

(例)暖房出力kcal/h=温水循環量Qc( L /h)×温水の往き還り温度差(Tout−Tin)℃

5 チップの許容値以上の含水率の燃料を使用した場合

【チップボイラでおきる諸問題の現象】

  • 1) チップがサイロで凍結する。
  • 2) 炉内温度が低下する。
  • 3) ボイラの出力が十分出ず、必要な温度のお湯が作れない。
  • 4) 煙管部にタールが付着するなど、頻繁に(2週間に1回など)掃除をする必要がある。
  • 5) サイクロンや煙道部の誘引ファンにタールが付着し、それによってファンが壊れるなど、修理の回数が増える。
  • 6) 夜間や休日での負荷の低い時間帯では、種火維持モードとなるが、その場合は炉の温度が低いことなどにより、水分の蒸発が十分に行われない。そのため不完全燃焼が起こり、タールなどが発生しやすく、煙管部などに付着し、掃除や修理の回数が増える。
  • 7) 煙突、煙道に付着したタールやすすに、やはりタールやすすが付着した熱交換部で十分な熱交換が行なわれなかった高温の燃焼ガスが引火し、煙道や煙突火災を引き起こす。

【考えられる原因】

上記の現象はいずれもチップの含水率が高すぎるためであると考えられる。ボイラの許容含水率の上限は120%(乾量基準)で、これを超えると

  • 1) ボイラで燃焼して発生する熱が燃料の水分の蒸発のために相当量使用され、使える熱が十分得られない。それだけでなく、
  • 2) 燃料の水分を蒸発させる燃焼炉の蓄熱度も下がるため、燃焼自体も不完全燃焼気味になる。その結果、
  • 3) 燃焼ガス中にスス(未燃物)が増え、タールが発生し、それらが熱交換をする煙管部に付着し、煙管部やサイクロンを詰まらせる原因になる。
  • 4) ススやタールなどが煙管に付着すると熱交換が低下し、出力が出ず、必要な温水が作れない。
  • 5) タールが誘引ファンに付着すると、ファンに抵抗ができ、炉内の負圧が維持できずエラーが頻発し、最後は誘引ファンが壊れる。
  • いずれの現象も燃料の木質チップの含水率が高すぎることが原因と考えられる。

【燃料、サイロ、負荷における対策】

  • 1) 投入するチップの含水率を許容限度内(乾量基準で120%以下)に保つ。このためにはチップの供給業者がこの含水率上限を遵守する。一般的にはチップとなる前の原木を1年以上(少なくとも一夏を過ごして)自然乾燥させるのが一番効果的である。
  • 2) 地中温度は比較的安定して暖かいので、サイロは地下式で作るほうが外気温度の影響を受けにくい。
     
    (注)サイロを機械室より高い位置に置くと、ボイラ炉内の残り火から逆火が起こると、燃料が細かかったり、逆火の対策が十分でないと、火は搬送路を通してサイロまで燃え移ることがあり、火事の原因となる。サイロは低い位置に設置し、そこからの燃料搬送路は昇り勾配とするのがより安全である。
  • 3) 冬場では特に、外気の湿度が高いために、自然とチップが水分を吸収し、含水率が高まる。サイロ投入時は許容含水率以下だが、サイロ内で含水率が高まることがある。それを防ぐためにはサイロはシャッターと同時にサイロに蓋を設け、極力外気と遮断し、湿度の流入を防ぐ。また蓋には断熱材を張って、サイロ内の結露を防ぐ。
  • 4) サイロ下部には排水孔を設け、チップから分離した水分や結露した水分を排出できるようにして、サイロ内の湿度を上げないようにする。
  • 5) サイロ内は水分の蒸発を促進するために暖気を採り入れ、蒸発した水分を換気で外に排出する。そのためには、温水パネルヒーターやサイロ底部での床暖房などの設置、サイロに排出ファンを設け、機械室暖気の採り入れを行うなどの方法がある。
  • 6) ボイラの燃焼炉に投入されるチップの含水率を下げるために、燃料搬送路に温水ベルトを巻くなどして加温し、水分を蒸発させる方法は一定の効果が見られる。
  • 7) 生チップ焚きボイラでは断続運転はよい効果をもたらさないので、一定以上の負荷をボイラに与え、連続燃焼させることが含水率の高いチップでも好燃焼させる方法である。具体的には、建物の暖房の場合、室内暖房負荷は主として昼間が多く、夜間が低負荷となるので、夜間に@駐車場などの融雪負荷を設けたり、A温室暖房などを行うことで、1日24時間を通して負荷がある状態を極力保つようにすることが望まれる。